今日は企業の新規事業開発を子会社政策という観点から、考えたいと思います。
企業が高いリスクを承知のうえで、新規事業開発を行うために子会社を作るとき、その目的に何を据えるかが成否のポイントになります。
昨年、航空機業界で日本人にとってうれしいニューと残念なニュースの両方がありました。うれしいニュースとしては自動車メーカーのホンダが小型ビジネスジェット機の商業化に成功、アメリカ国内で最も売れた小型ビジネスジェト機となりました。
ホンダは創業者本田宗一郎の夢の実現のため長年飛行機を研究開発してきました。それを任されたのが東京大学工学部航空学科を卒業して30年前にホンダに入社した藤野道格さんという方でした。
ホンダはゼネラル・エレクトリック社と共同開発し、独自の航空機エンジンを開発しました。機体は藤野さん以下で研究開発し、主翼の上にエンジンが乗る世界的にも珍しい構造を見出しました。この構造を見てアメリカの技術者は当初馬鹿にしたそうですが、従来に比べ空気抵抗を低減、10%も速度改善した結果に、その声は称賛に変わったといわれます。
そして2003年ついにホンダJetが初飛行に成功しました。しかし、ホンダの経営陣は初飛行でホンダの技術力を証明できたからここまでとして、商業化は見送ろうとしました。この時、経営陣を説得してエアショーでの発表にこぎつけたのが、あの藤野さんです。
実際エアショーに出品すると飛行スピードの速さと、客室容積30%増などの理由から人気が殺到しました。こうして2008年、ホンダは小型ビジネス飛行機のビジネス化に踏み切るためホンダアエアクラフト社を100%出資で設立、開発責任者の藤野さんを社長に据えました。同社は順調に販売を増やし2017年デリバリー数世界NO1を達成。2020年には黒字転換できる見込みです。
一方これと対照的に残念なニュースが、三菱航空機です。三菱重工が開発中の中型旅客機MRJは本当にうまくいくのでしょうか。
三菱重工のMRJは中型の旅客機として開発中ですが、すでに5回も納入が延期され、昨年末には一部の受注でキャンセルが出て衝撃が走りました。5回の延期の間にライバルが実績を上げつつあり、型式証明が取れ試験飛行に成功しても、もはやビジネス化は断念せざるを得ないのではないか、とさえささやかれています。
このMRJの失敗はなぜか?いろいろ言われています。最大のマーケットであるアメリカで型式証明が取れずに苦しんでいるのを見て、「最初からアメリカで開発すればよかったのに、三菱重工は自社の技術への過信から国内開発にこだわりすぎたのが失敗の原因だ。」という人がいます。一方、ホンダは最初から開発拠点をアメリカに設けました。
とはいえ、両社の飛行機は全く大きさが違います。三菱MRJの開発の難しさはホンダJETの比ではないかもしれません。
ここでは、ホンダと三菱の子会社政策の違いに着目します。
ホンダは巨額の費用と人材が必要になる開発段階では本体直轄で行いました。その後、初飛行成功、エアショーでのお披露目を経て、ホンダエアクラフト社はビジネス化のために設立されました。もちろん社長には長年このPJを主導した藤野さんを当てました。
一方、三菱は機体の開発為の子会社三菱航空機を設立、三菱重工60%、トヨタ、商事、物産を主要株主にしました。いわば開発リスク分散のための子会社だったのです。しかも三菱航空機は機体の開発設計のみ、主要なエンジンは親会社である重工本体が手掛けたのです。技術面の問題だけでなく、実は親子での確執もあったといわれます。社長は本体から5人が順繰りに送り込まれ、納期延期の都度、交代しました。
まずは開発リスク分散のための子会社設立か、それとも、企業体としての体を成すビジネス化のための子会社設立か、判断のわかれるところです。しかし私は航空機のようにリスクの高い新規事業は、開発段階は本体で行い、事業化のめどが立ったら子会社を設立するほうが合理的だと考えます。
皆さんはどうお考えですか?